ナチュラル-D 開発秘話
出発点は「デンチャースペース義歯」
一般的に入れ歯はみんなに嫌われます、患者さんにも術者にも(苦笑)。 大きくて入れるのが辛い、見た目が悪く笑えない。痛くて咬めないしすぐ外れる。外した顔を見たくない、などなど…。
私が考案した「ナチュラル‐D」は一般的には「デンチャースペース義歯」に属します。デンチャースペースとはもともと歯と歯茎があった空間に義歯を納めるという考え方です。そのため理屈では義歯を装着しても邪魔にならないということになります。
ただ、そのためには相当小さく薄く作らねばなりませんので実現は困難でした。噛む力は自分の体重以上あり、薄く小さくすると壊れてしまうからです。
以前より手掛けていたMTコネクターも同じ種類の義歯です。留め具はなく一切バネは付けませんので締め付けも存在感もない。着脱は簡単でスッと外せるけど、日常生活では外れないというものです。出会った当初は、従来のものとは全く違い常識を覆す破壊力がありました。では、何故15年以上扱ってきたMTコネクターではなく、ナチュラル‐Dを作ることになったかについてお話しましょう。
MTコネクターとナチュラル-Dの違い
どちらもデンチャースペース義歯なのですが、大きな違いがあります。
それは全く支えを持たないMTコネクターと全体で歯をそっと支えるナチュラル‐Dと言えば良いのでしょうか。
MTコネクターを手掛けて、本まで書きましたが後に続くことができた先生はほとんどいませんでした。何故なら、全く固定しないので義歯の安定には緻密な咬合調整が必要だったからだと思っています。これができないと痛みや脱離を起こしてしまいます。私もこれを習得するのに数年かかりました。
しかし、忙しい先生達にはそんな時間もなく、私のように病院を休みにしてまで勉強に通うことは好みませんでした。私は必死で学びましたので幸い成功してここまで来ることができたと思っています。
将来を考え、後継者を養成するために大学の後輩を雇ってみたこともありますが、なかなか難しいものです。色々な他の義歯も勉強した中で、比較的広く扱われているミラクルデンチャーに入門したことがあります。そこで気付いたのが、先生達はリジットサポート…しっかり固定されて外れない…を求めているのだと。
理想のデンチャースペース義歯を目指して
そこで、私はデンチャースペース義歯で固定力を上げたものを考えることにしました。がっちりと固定はしないけどカタカタ動いたりせず、調整もそれほどシビアにしなくても大丈夫な程度には支える。もちろん調整が出来ないと痛みや咬みにくさは克服出来ませんが、少なくともすぐ外れるという問題は解決されます。歯に負担をかけず、見た目も崩さないように小さく固定したい。
これは大変難しい命題でしたが、ここで今までの経験が生きました。
義歯を作るに際して、大切なポイントが3つあります。
- 長時間装着しているのが苦痛ではないこと(見た目も含めて)。
- 発音に支障がないこと(大笑い出来ること)。
- 奥で物が咬めること(前歯咬みは良くない)。
先ず、いかにも入れ歯というものでは笑えもしませんし喋れないですね。TVで切れの良い話術が売りだった某女性は突然滑舌が悪くなってしまいました。
これは、ご本人もそうでしょうが視聴者も聞いていて辛いものがあります。大きな口も開けることができないとモゴモゴ籠った音になりやすいですし笑顔も減りますね。
もちろん前提として長時間装着しても違和感がないのがベストで、食事以外は外すという義歯では慣れることはありません。そして使わなくなります。
奥でものを咬むことはとても重要です。前歯で咬むことしかしないと、下顎が横方向ではなく前後に運動します。また、顎を突き出すと前かがみになりやすく、猫背から頭痛肩凝り、腰痛、脚まで影響することもあります。
奥で食いしばることができないと、体幹にも歪みが生じますし咬筋や顔面筋が衰えてたるみ、ホウレイ線や口角から顎への皺を深くすることになります。
そして、前歯はその負担過多からまた駄目になっていくという悪循環です。
欠損歯に悩むすべての方へ
義歯を必要とする年齢層はアクティブシニアと呼ばれる方が多いですが、若くても事故や何かで歯を失う方は居ます。どの年齢層でもやはり見た目はとても大切です。私は可能な限り義歯を「もっと美しく、快適に」をモットーに義歯を作っています。ウィッグではないですけど、気付かれないで装着出来れば、そして着けていることを忘れるような義歯を目指しています。
患者さんの要求は千差万別ですが、それぞれに一番適した設計をすることが満足度に繋がると考えています。自分の歯を傷めないことも大事ですが、仕事や趣味にイキイキ取り組むにはやはり食事と笑顔は欠かせませんよね。
私はこのナチュラル‐Dが皆様のお役に立てると信じています。